未来志向

特例措置の期限と次期制度の戦略的選択~経営者が今すぐ取るべき行動【第6回「下」】

特例措置の最終期限が迫る:戦略的判断の時

事業承継税制(特例措置)は、「全株式・100%猶予」という圧倒的なメリットを提供してきましたが、その特例承継計画の提出期限(令和8年3月末)が刻一刻と迫っています。この最終期限を前に、多くの中小企業経営者は「今の特例措置に駆け込むべきか」、それとも「より使い勝手が良くなると予想される次期制度を待つべきか」という、重要な戦略的判断を迫られています。

現行特例措置のメリットとデメリットの再確認

判断を下す前に、現行の特例措置が持つメリットと、コラム「上」で解説したデメリットを再確認しましょう。

現行特例措置のメリットとデメリットの再確認

税負担に関する項目

・メリット (現行特例措置)~贈与税・相続税が全株100%猶予されます。納税負担の即時解消が可能です。

・デメリット (現行特例措置)~猶予であり、後継者が死亡するか、次代に承継するまで免除にならない(無限の責任)というリスクが残ります。

株式保有に関する項目

・メリット (現行特例措置)~全株式(100%)を後継者に集中できます。

・デメリット (現行特例措置)~100%承継が必須であり、その後の資本政策やM&A戦略の柔軟性が低下します。

手続きに関する項目

・メリット (現行特例措置)~期限内であれば、現行の圧倒的な猶予を享受できます。

・デメリット (現行特例措置)~手続きが煩雑であり、株価対策や承継計画の策定に時間がかかります。

判断基準は「成長への覚悟」と「資本政策の柔軟性」

この判断は、単に税金の多寡で決めるものではなく、各企業が「10年後、どうありたいか」という成長戦略と、後継者の「覚悟」に依存します。

「駆け込み」が推奨されるケース

・税負担の即時解消を最優先とする場合~株価が高騰しており、相続税・贈与税の負担が極めて大きい。当面の税金問題を何としてでも解消したい企業。

・「無限の責任」を許容できる後継者の覚悟がある場合~後継者が終身経営する覚悟があり、当面M&Aや外部資本の導入の予定がない企業。

「新制度待ち」が戦略的なケース

・資本政策の柔軟性を重視する場合~将来的にM&AやIPOを見据えており、100%保有にこだわらず、柔軟な資本政策をとりたい企業。

・後継者育成が未完了の場合~まだ後継者が定まりきっていない、または後継者の育成(アトツギ支援)を優先したい企業。

新制度は、コラム「中」で解説した通り、有期免除や柔軟な株式保有が導入される可能性が高く、より使い勝手が良くなると予測されます。

コンサルタントからのメッセージ

事業承継の中でも、「リブート」である事業承継は、税金対策ではありません。それは、あくまでも「企業の再起動(リブート)」です。制度の細かな要件に振り回されるのではなく、「10年後、この会社をどうしたいのか」というビジョンを後継者と共有することからすべては始まります。

① 後継者と共有すべき「承継後のビジョン」

承継計画の策定において、最も重要な要素は「税制」ではなく、「経営理念と事業戦略の再構築」です。

・ビジョンの再定義~現状維持ではなく、「なぜ、この事業を存続させるのか」「地域や社会に対し、どのような価値を提供し続けるのか」を後継者と共に再定義します。

・「アトツギ」の実行力重視~コラム「中」で詳述した通り、国は「挑戦するアトツギ」を支援する準備を整えつつあります。後継者が家業の資産を活用し、新規事業(ベンチャー型事業承継)に積極的に取り組む姿勢こそが、今後の制度の恩恵を受ける鍵となります。

・経営者の精神的な移行~現経営者は、税制の猶予・免除の議論以上に、「後継者が自由に経営できる環境」を整えることに注力すべきです。古い慣習やしがらみを断ち切り、後継者に権限を委譲する「勇気ある一歩」が不可欠です。

② 成長を促すための資金投下を最優先せよ

コラム「上」で警告した通り、新制度は「過度な節税対策」に厳しい目を向けています。成長投資に回すべき資金を、株価対策のためだけに無駄な資産購入に充てることは、今後の制度利用においてはリスクとなります。

・投資の優先順位~節税のための不動産購入よりも、賃上げのための原資確保、DX化や生産性向上のための設備投資を優先すべきです。これらは、新制度において「賃上げ実績」や「生産性向上」として制度適用要件そのものになる可能性が高いからです。

・コーポレートガバナンスの意識~承継を機に、社外取締役の登用や取締役会の機能強化など、ガバナンスの透明性を高める努力をしましょう。税制優遇を受ける企業として、オーナー企業であっても公器としての責任を果たす姿勢が求められます。

今後の制度展開と経営者への具体的な提言(結論)

今回の「中間とりまとめ」は、事業承継税制が目指す方向性が、「税金対策」から「持続的な企業成長」へと完全にシフトしたことを示しています。

予測される今後の制度展開

・「条件付き免除」の導入(最重要)~「死ぬまで株式保有」という要件は緩和され、一定期間(例:10年)の健全経営と成長(賃上げ・生産性向上)を達成すれば、納税義務が免除される「有期型」の仕組みが検討されるでしょう。これにより、後継者は将来の不確実性から解放されます。

・早期承継(贈与)の優遇強化~相続(死亡後の承継)よりも、贈与(生前承継)のメリットを大きくすることで、経営者の早期若返りを促す設計が強化されるでしょう。これは、後継者育成の時間を確保し、経営のバトンを円滑に渡すための重要なインセンティブとなります。

結論:経営者が今すぐ取るべき行動

・期限が迫る特例措置への対応~令和8年3月末の計画提出期限を絶対に意識してください。特例措置の「全株100%猶予」というメリットが、「無限の責任」というデメリットを上回ると判断する企業は、直ちにコンサルタントや税理士と連携し、計画提出の準備に着手してください。

・成長戦略と育成の優先~新制度を待つ、あるいは特例措置に駆け込む場合でも、後継者の実行力育成(アトツギ支援)を最優先してください。今後は、「賃上げ」や「DX投資」が制度要件となる可能性が高いため、成長投資のための資金計画を最優先で策定してください。

・親子間の「対話」の徹底~税制の議論に入る前に、現経営者と後継者の間で、「なぜ事業を承継するのか」「承継後、何を成し遂げたいのか」というビジョンと理念を徹底的に話し合うことが、最も重要です。この対話こそが、成功する事業承継の揺るぎない土台となります。

最終結び

挑戦するアトツギを国は支援する今回の「中間とりまとめ」は、国が、単に税金の先送りを目的とするのではなく、「挑戦と成長」を掲げる中小企業、特に「挑戦するアトツギ」を全面的に支援する姿勢を示したものです。経営者の皆様、制度の進化は待ったなしです。税制という「道具」を最大限に活用し、次世代の経営者にバトンを渡すことで、企業を力強く再起動させてください。私たちは、その決断と実行を全力でサポートいたします。(KML)

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