未来志向

事業承継の3つの障害と2026年の国家施策【第20回】

事業承継において、多くの経営者が直面する障害は、突き詰めれば以下の3つに集約されます。

・先代と後継者のコミュニケーション不足

・過大な相続税

・連帯保証の負担

実は、2026年4月から7月にかけてのわずか2か月半の間に、国はこの3つの障害すべてに対して新たな手立てを講じました。特筆すべきは、所管する官庁が経済産業省、国税庁、金融庁とバラバラである点です。国は一枚岩ではなく、それぞれが独自の動きをしています。これらを統合し、実務に落とし込むことこそが、我々専門家の役割です。

1. コミュニケーション不足への答え:ファミリーガバナンス

経産省が令和8年6月5日に公表した「ファミリーガバナンス・ガイダンス」は、非上場中堅ファミリービジネスを主対象とした画期的な指針です。

この中で重視されているのが「ファミリー憲章」の活用です。これは拘束力のない「ソフト」なルールであり、家族が話し始めるための「きっかけ」として機能します。しかし、憲章だけでは守らない者を止めることはできません。そのため、株主間契約や信託といった法的拘束力のある「ハード」な仕組みを併用する必要があります。

憲章が先か、契約が先か。答えは間違いなく「憲章が先」です。合意なき契約に署名を取ることは不可能です。ただし、黄金株(拒否権付種類株式)の導入などは事業承継税制の猶予と衝突するリスクがあるため、税務とのセット検証が不可欠です。

2. 過大な相続税への答え:株式評価の抜本見直し

国税庁では、昭和39年制定の「財産評価基本通達」について、62年ぶりとなる抜本見直しに向けた有識者会議が進行中です。

現在、会計検査院からは「評価の不公平性」や「還元率の現状不適合」などが指摘されており、既存の3つの評価方式(類似業種比準方式、純資産価額方式など)がすべて俎上に載っています。当局は評価方式の一本化も視野に入れていますが、どの方向へ進むかはまだ確定していません。

重要なのは、報道や民間情報の推測で顧問先に安易な断定をしないことです。現在確定しているのは、特例承継計画の提出期限(2027年9月末)と、事業承継税制の実行期限(2027年12月末)のみです。現状の自社株評価を把握し、影響を試算した上で、専門家と慎重に判断を進める必要があります。

3. 連帯保証の負担:解消への正しい順序

経営者保証の解消において、「相談窓口を利用すれば自動的に外れる」という認識は誤りです。

経営者保証を外すための正しい順序は、まず「借換え」を検討することです。プロパー無保証への切り替えや、事業承継特別保証制度の活用により、制度上の客観的要件を満たすことが最も確実です。2026年には「事業性融資推進法」が施行され、新たな選択肢も増えました。

ガイドライン特則はあくまで「借換えができない場合の補完」として活用し、構造的な遮断を伴う事業譲渡などは最終手段と位置づけるべきです。保証を交渉で外そうとするのではなく、EBITDA有利子負債倍率の改善や資産超過など、金融機関が「外せる」と判断する財務体質を作り上げることが最短の道です。

結論:専門家によるトータルサポートの必要性

ファミリー憲章の策定には弁護士が、株式評価の分析には税理士が、そして金融機関との交渉には銀行とのパイプを持つ専門家が必要です。国の施策が分散している今だからこそ、これらを俯瞰し、経営者の皆様にとって最適な事業承継を導くトータルサポートが求められています。(KML→KM)

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