企業の永続を目指す経営者の皆様にとって、後継者問題は避けて通れない最大のテーマです 。しかし、この問題が、いま、かつてない危機的な状況にあることが、最新の調査で明らかになりました。
株式会社東京商工リサーチが実施した2025年「後継者不在率」調査によると、後継者不在率は62.60%に達し、調査開始以来、過去最高を更新しています。これは、日本の中小企業の3分の2近くが、現時点で未来の舵取り役を決められていないことを意味します。
この数字は、単なる統計ではありません。それは、「経営者の想い」や「従業員の生活」といった、目に見えない大切な価値が、将来的に失われる可能性があるという「危機感」を、私たちに突きつけています。本コラムでは、この衝撃的なデータを事業承継を「未来への挑戦」 へと変えるための戦略的なヒントとして読み解きます。
「まだ間に合う」という油断が招く最悪の事態
「うちの会社はまだ若いから大丈夫」「後継者探しは景気が回復してからでいい」と考える経営者の方もいるかもしれません。しかし、調査結果が示す現実の深刻さは、「早期の準備」こそが企業の命運を分けることを示唆しています。
後継者不在率は、代表者の年齢が若いほど高いのは当然ですが、注目すべきは「80代以上」の層です。この層でも約4分の1にあたる24.97%が後継者不在であり、しかもその不在率は前年より上昇しています 。
円滑な事業承継には数年かかると言われています。にもかかわらず、高齢になってから着手しても後継者が見つからない場合、その会社の一定数は廃業が避けられない状況にあります。経営者が「生涯社長でいたい」という本音を乗り越え、「潔く手放す覚悟」 を持って早期に準備を進めることが、会社への最後の、そして最大の貢献となるのです。
成長産業に潜む、承継の「ガラスの壁」
産業別のデータからは、さらに別の課題が見えてきます。
後継者不在率が最も高かったのは、「情報通信業」の77.06%でした。ワースト1位の「インターネット附随サービス業」に至っては88.20%に達しています。
これらの業種は、代表者のスキルや目利きが業績に直結する専門サービス業であり、承継の難しさ(属人性の高さ)が背景にあると分析されています。これは、特定の個人に依存した経営から脱却し、「理念を羅針盤」 として、組織全体で事業を推進できる体制への移行が急務であることを示しています。
後継者育成のプロセス(武者修行、OJTなど) を通じて、技術やスキルだけでなく、「経営者としての判断軸」 を次世代に体系的に伝える戦略が必要です。
誰に継がせるか?親族外承継の課題と「覚悟」
後継者が「有り」と回答した企業(約37.4%)の内訳を見ると、親族内承継(同族継承)が主流(63.65%)ではあるものの、その割合は減少し、外部招聘(社外の人材)が徐々に増えています。
しかし、注目すべきは、社内の業務に精通し、信頼もあるはずの「内部昇進(従業員)」が16.23%と低い点です。記事では、従業員への承継が進まない要因として、経営者保証の問題や、企業内に見えない「ガラスの壁」が存在する可能性が指摘されています。
親族外承継を進めるには、現経営者が「この人に託したい」という明確な意思を真摯に伝えることから始まります。同時に、後継者もまた、「経営者になるという覚悟」を行動で示し、事業計画の策定などで応える必要があります。この「覚悟」のぶつかり合いと相互理解こそが、社外・社内を問わず、承継を成功させる鍵となります。
まとめ~62.60%は「戦略を見直すチャンス」
後継者不在率62.60%という現実は、多くの企業が事業承継という大きな課題に直面していることを示しています 。しかし、この危機感こそが、「第二の創業」 として未来を再構築する最高の機会となり得ます。
後継者不在の企業のうち、「未定・検討中」と回答した企業は約46.60%にものぼります 。これは、「まだ決まっていない」という企業が、今まさに戦略を立てるべきだというメッセージに他なりません。
事業承継は、単なる「引き継ぎ作業」ではなく、自社の存在意義を問い直し、新たな経営戦略を策定する「未来を創るプロセス」です。私たちコンサルティングチームは、この重要なプロセスにおいて、企業の「永続」を目指す皆様の伴走者でありたいと願っています。(KML)